2020/08/25 22:05

hito Pressから発行された写真集「midday ghost」。
写真集発表と同時に、同タイトルの展覧会をROCKETSTUDIO STAFF ONLYの二会場で開催し、さらに全国での巡回展も決定している。
写真家・濵本奏が写真を撮り始めたのは、わずか3年前。偶然古いフィルムを手にしたことがきっかけだった。midday ghost」は、現在19歳の彼女にとって3作目の作品にあたる。

 hito press代表・中村俵太が聞いた、初めて写真を撮った日から今まで、そしてこれからのこと。濵本奏 初のインタビュー。

midday ghost」写真集より


中村:写真に興味を持ったきっかけは何だったの?

濵本高校2年の時、横浜から鎌倉に引っ越すことになって、家の片付けをしていたら両親が若い頃撮ったコダック35mmフィルムが出てきたんです。家族で「何が写ってるんだろう?」って現像に出したら期限切れのフィルムだったのもあって、全体がピンクがかった、見たことがない写真で。それまでデジタルカメラで撮った写真しか知らなかったけど、見たままに写らない面白さを感じて「フィルムで写真とりたい」ってカメラを買いに行ったんです。
見た目が可愛いという理由でCanonAE-1を買いました。操作方法はYouTubeで見たけど絞りやシャッタースピードはわからないままに撮った写真を現像してみたら、やっぱり面白かった。それで、操作はわからないままでいいって思って、撮り始めたんです。

初めて現像した写真


中村:それまで写真や美術に興味を持っていたわけじゃなかった?

濵本他の子よりもちょっとだけ美術が好き、っていうくらい。小さい頃からピアノを弾いていて、中学ではサックスをやって、なんとなく音大に行くのかなって思っていた時、写真に出会った。高校2年の時は大きな出会いがもう一つあって、「まるちゃん」との出会いです。
 
中村:「midday ghost」の表紙にもなっている、「まるちゃん」。

まるちゃん


濵本そうです。まるちゃんとはちがう高校で、顔見知りだったんですけど、SNSを見て仲良くなれそうって思って連絡したら仲良くなって。2人で遊ぶ=撮影って感じで、鎌倉の海や森に行っては、まるちゃんを撮っていた。

中村:その頃は何が目的で写真を撮っていたの? 
 
濵本:何よりも楽しかった、っていうのが一番の理由です。身近な場所で身近な人を撮影して、でも「これは何処なんだろう?誰なんだろう?」って感じるような世界が写っている感覚があって。バイト代も全て写真につぎ込んでいる自分に気づいた時「わたし写真すごい好きなんだ」って。撮った写真をSNSにもあげていたけど、ワンスクロールで消えてしまう、みんなと同じプラットホームに載せるのがもったいないと思うようになって、高校3年生の時に初めての写真展を開催しました。
 
中村:それは何ていう作品だったの?
 
濵本今思えばダサいんですけど(笑)mi-kanseiっていう作品です。その頃はギャラリーもわからないし、繋がりもないし、都内のレンタルスペースを探していたんですけど、ぜんぜんピンとこなくて。一緒に展示場所を探してくれていた母に「何で都内なの?」って聞かれて、都内じゃなくていいって気づいて。鎌倉の海の近くにある小さなギャラリーで展示しました。その頃には「ずっと写真をやっていきたい」という思いを持っていて、でもどうしたら写真を撮っていけるのかっていう道筋はわからなくて、とにかく発表してみようと思って展示しました。
 
中村:展示は反応を得られた?
 
濵本仙台や北海道からも展示を観に来てくれた人がいて。「写真展のために生まれて初めて鎌倉に来ました」って言われたり……。宣伝はSNSではしていたけど、会ったこともない人がこんなに観に来てくれるんだって、本当にびっくりすることばっかりでした。
 
中村:自分の作品を発信することで何かが起こり得る、と初めて感じたんだね。

mi-kansei」展示風景


濵本そうです。展示のちょっと前、高校3年の夏には現代美術をやりたいとも思っていました。ソフィ・カルやオラファー・エリアソンの作品を知って、リアリティやコンセプトに衝撃を受けて。それまで知らなかった現代アートに魅かれ、写真は毎日撮りつつ、布を使ったり、海のゴミを使ったりしたミクストメディアの作品も作り始めて。
 
中村:両方の考えがあるのが面白いと思った。写真をやっている人も現代美術をやっている人も、振り切れてどちらかをやっている人が多いけど、2つの軸があることが面白い。メモ魔で物事を思考的に落とし込んでいくのに、大雑把で小さなことには動じない大胆さもあって、性格的にも二面性があるし(笑)

ミクストメディアの作品、作品づくりの為のメモ


中村:そして11月には、2回目の写真展reminiscence bumpを開催した。
 
濵本そうです。記憶のコブっていう意味のタイトルです。心理学の本で、年をとって過去の記憶を想起する時に甦りやすいのは10代後半〜20代前半のこと、と読んで、記憶って想起するたびにちょっとずつ変わっていくな、それって写真に似ているなって思ったんです。以前に撮った写真を今見ると感じることがちがう。それで最近撮ったものと昔撮ったものを混ぜて、記憶をテーマにした写真展を開きました。
 
中村:展示をはじめて観て、濵本さんはものごとを見せる力があるって感じた。立体空間って作家の意図がより現れる場だと思うんだけどreminiscence bumpってタイトルがちゃんと「そこ」に収まって、体現されていた。
それで、この次はどんな作品作ろうと考えてるの?って話をしたんだよね。

reminiscence bump」展示風景


濵本今回の「midday ghost」の展示会場の1つだったROCKETから連絡が来て、春に展覧会をすることが決まったんです。それで、つぎの展示ではインスタレーションがしたい、と中村さんにも相談しながら、展示方法を考えていたら、コロナが起きて。
 
中村:濵本さんに展示の相談を受けた時、僕は展示で「ものごとは動かせる」って思っていた。写真展をやれば人が来て、表現は伝えられる。無名の濵本奏っていう作家に、たくさんの人が出会える。新しい何かを生んでいくことができるって。でもコロナ禍に展示もできず、人が出会えず、インターネット上で多くの作家が発表をするようになって…展示や作品が今後どういう意味を持ち得るのだろう?って考えたんだよね。それで、こんな時だからこそ物質として残るもの、本という手段があるって思った。今、写真の流れといったらフィルムで撮ってSNS上に取り込み、ポートフォリオ化している人が多いけど、物質として残るもの、ワンスクロールで消費されない「もの」。そんな「もの」でしかできない表現は、やっぱり大切だなって。
 
濵本展示が延期になったことで、何をしていいかわからなくなった瞬間もあったんですけど、そんな状況だったからこそ、本を作ろう、いっそ展示会場も増やそうって中村さんと話して。もっと見せたいものがあるから、ROCKETの展示と、STUDIO STAFF ONLYの展示、写真集。タイトルや写真は同じでありながら、それぞれコンセプトを持った三方向のアウトプットを形にしていきました。

midday ghost」ROCKET 展示風景

midday ghostSTUDI STAFF ONLY展示風景

midday ghost」写真集


中村:midday ghost」という作品が持つテーマを教えてくれる?
 
濵本闇夜に出るはずの幽霊が、もしも白昼堂々現れたら、太陽の光を透かして眩しいのではないかなと思うことがあって。曇りの日に出たなら空の白色に溶けこんでいそうだし、雨の日なら足元で跳ね回るように目まぐるしく出たり消えたりしそうだな、とか。そんな妄想を続けるうちに、私が撮ったものたちはみんな、幽霊だったら面白いのに、と、思うようになりました。幽霊は人の形をして現れるものではなくて、現実に紛れこむ非現実的な一瞬のことを幽霊として考えて。私にとって写真を撮ることが、その一瞬、真っ昼間の幽霊をつかまえる方法だなって。
西陽の反射や、水紋、髪の毛の束、枯れた花や蝶の死骸など、実際にこの世にあるものの、その輪郭が曖昧だと感じる存在。妄想の中の幻なのか、移ろう景色の正体なのか。そんな、絶えず移ろう実体を持たない亡霊のような光景を集めたのが今回の作品「midday ghost」です。

midday ghost」写真集より


中村:写真集も明確なコンセプトを持って作ったよね。
 
中村さんと、ブックデザインを手掛けてくださった藤田さんに「何かを見つめるとき、いつしか自分の身体が透き通ったような感覚に陥るほどの没入感を味わうことがある。この写真集を手に取った人が写真集を見ている間自分のいる環境を一瞬忘れてしまうような写真集にしたい。」とお伝えしました。写真集の288ページの中には白紙が多くあります。白紙を一枚一枚めくるうちに、身体を置いてけぼりにしているような没入感を味わってほしい、という意図があります。白紙の部分の前後には、より抽象的な写真を、白紙の途中では、じわじわと浮かび上がるよう、ポートレート写真を配置していただきました。この白紙の存在により、写真集にも展示空間のような奥行きを生み出せることを知りました。写真集の制作は、さまざまな工程がありました。そのすべてが新鮮で毎日感動しっぱなしでした。藤田さんが組んでくださったデザインをもとに、写真一枚一枚を一緒に確認し、何度も配置を組み替えました。めくっていて気持ちの良い、軽やかな写真集になったと思います。本は、世界中どんなところへでも、私が行けないところへも、旅立つことができます。シワや折れ、日焼けなどの傷みも本ならではです。この写真集を持つ人によって写真の表情が変化することを想像するととてもわくわくします。
中村さん、藤田さん、印刷所の方々、手作業で題箋貼りをしてくださった方々など、本当にたくさんの方々の途方も無い作業のおかげで一冊一冊が生まれました。

制作風景


中村:midday ghost」の写真の、壊れたチェキで撮る写真は濵本さんの作風となるのか、今だけの表現なのか未知だけど、作品はいつも濵本さんの私的な視線が作品になっているよね。制作のインスピレーションやモチベーションの源は何?
 
濵本言葉です。写真を撮ること自体は生活の一部になっているのですが、その写真たちを発表する際のコンセプトやタイトルは、読みものから着想を得ることが多いです。図書館で、いろいろな分野の専門書を読むのが好きです。目に留まった言葉をひたすらメモします。最近メモしたのは、地図の歴史は文字よりも古く、起源は土や雪の上に描くサンドマップであるという話です。風に吹かれたり、人に踏まれたりしてすぐに消えてしまうサンドマップと、形をとどめない記憶をテーマにしている自分の作品を重ねたりしました。本に限らず、友人との日常会話、SNSでのやりとり、電車で隣から聞こえてきた知らない人の会話……なんでも気になった言葉はメモしています。

midday ghost」写真集より



中村:こんな時代に、よく出版レーベルなんてって言われたけど、表現していくべき写真に、拡がりや強さ…そういったものを持たせなくちゃいけないって思ったから、hito pressができたんだと思う。まだまだ巡回展は続くけど、濵本さんからは早くも、次回作の話もちらほら聞くし、今後やりたいことを教えてくれる?
 
濵本屋外で展示がしたいと思っています。写真は動かない一瞬のものとして存在していますが、それを鑑賞する環境によっては見え方が変化することを今回の展示で感じて。日ごろから、目まぐるしく移り変わる天気や季節の風景を撮っているので、同じく、人の力では制御できない自然の中で作品展示がしたいです。あとは車に写真集や作品を積んで、移動式展示をしたいです。移動式展示をしつつ各地で作品が増えていったら面白いなとか。
今までは1人での制作が多かったけど、今回、人と一緒に作業することの楽しさや、そこから生まれる新しい発見に感動したので、これから誰かと共同での制作もやっていきたいと思っています。写真に限らず、音楽や映像、身体表現などさまざまなジャンルを飛び越え、たくさんの人と関わりながら作品をつくっていきたいし、
やりたいことがたくさんありすぎて挙げていたらキリがないのですが、まずはこの「midday ghost」をより多くの方に届けることができるよう、全国、世界中に行きたいと思っています。直接、人に会って、話して、写真をみてもらうということを、ずっと続けていきたいです。

2020年8月某日    (取材・編集:中村暁野)
midday ghost」写真集より


「人」NO.001  写真家:濵本奏
2000年 横浜市生まれ福岡県育ち
東京・鎌倉を拠点とし、写真を表現の軸に活動。
2018年 鎌倉にて初個展「mi-kansei」 2019年 渋谷にて個展「reminiscence bump」
2020年 OMOTESANDO ROCKET、
STUDIO STAFF ONLYにて個展「midday ghost」2会場同時開催
hito pressより初写真集となる「midday ghost」を出版